IPアドレス開示請求で誹謗中傷の加害者は特定できますか?手順・費用・成功率を解説

IPアドレス開示請求は、ネット上の誹謗中傷投稿者を特定するための法的手続きです。2022年の法改正により手続きが簡素化され、3ヶ月〜1年程度で加害者の特定が期待できるようになりました。費用は総額60〜100万円程度が目安ですが、成功すれば損害賠償請求により回収できる可能性があります。ただし、ログ保存期間(約3ヶ月)を過ぎると特定は困難になるため、迅速な対応が不可欠です。

IPアドレス開示請求とは何ですか?誹謗中傷の加害者を特定する方法

発信者情報開示請求でネットの匿名投稿者を特定できる

IPアドレス開示請求は、正式には「発信者情報開示請求」と呼ばれる法的手続きの第一段階です。インターネット上で誹謗中傷や名誉毀損などの被害を受けた場合、この手続きを利用することで匿名の投稿者の身元を特定し、法的責任を追及できます。

ネット上では匿名で投稿できるサービスが多いですが、匿名の投稿であっても、特定につながる情報が残されているケースがほとんどです。投稿時には必ずIPアドレスという「ネット上の住所」が記録されており、これを手がかりに投稿者を追跡できるのです。

IPアドレスから投稿者を特定する仕組み

IPアドレスがなぜ重要なのでしょうか。投稿者がSNSや掲示板に書き込む際、その通信は必ずプロバイダ(通信事業者)を経由します。サイト運営者は投稿者のIPアドレスとアクセス時刻を記録していますが、個人情報までは把握していません。

一方、プロバイダは「いつ、どのIPアドレスを、どの契約者に割り当てたか」という記録を保持しています。つまり、サイト運営者からIPアドレスを開示してもらい、そのIPアドレスからプロバイダを特定し、最終的に契約者情報を開示してもらうという2段階の手続きで投稿者の身元が判明する仕組みです。

2022年の法改正で手続きが大幅に簡素化

従来は、サイト運営者への仮処分とプロバイダへの訴訟を別々に行う必要があり、半年から1年以上かかることも珍しくありませんでした。しかし、2022年10月施行の改正プロバイダ責任制限法により、「発信者情報開示命令」という新制度が導入されました。

この新制度では、サイト運営者とプロバイダへの請求を一つの裁判手続きでまとめて行えるようになり、期間が3ヶ月〜1年程度に短縮されるケースも多くなりました。被害者にとって時間的・経済的負担が大幅に軽減された画期的な改正といえます。

IPアドレス開示請求の手順を教えてください|費用と期間の目安

開示請求の具体的な3つのステップ

IPアドレス開示請求は、以下の3つのステップで進めます。新制度では、これらを一体的に進められるため、従来より効率的です。

ステップ1:サイト運営者へのIPアドレス開示請求

まず、誹謗中傷が投稿されたサイト(X、Instagram、5ちゃんねるなど)の運営者に対して、投稿者のIPアドレスを開示するよう裁判所を通じて請求します。この際、投稿のURLやスクリーンショットなどの証拠が必要不可欠です。サイト運営者は任意での開示にはほぼ応じないため、法的手続きが必須となります。

ステップ2:プロバイダの特定

IPアドレスが開示されたら、「Whois検索」という無料ツールを使って、そのIPアドレスを管理しているプロバイダを特定します。これにより、NTTやKDDIなど、投稿者が契約している通信事業者が判明します。

ステップ3:プロバイダへの契約者情報開示請求

特定したプロバイダに対し、該当する日時にそのIPアドレスを使用していた契約者の氏名・住所などの開示を求めます。プロバイダは投稿者に「意見照会」を行いますが、裁判所が権利侵害を認めれば開示命令が出されます。

弁護士費用の内訳と総額の目安

IPアドレス開示請求を弁護士に依頼した場合の費用は、以下のような内訳になります。

費用項目金額の目安 
着手金(サイト運営者への請求)20〜30万円
着手金(プロバイダへの請求)20〜30万円
成功報酬(情報開示時)各15〜25万円
実費(印紙代・郵送費など)数万円
総額60〜100万円程度

高額に感じるかもしれませんが、特定後の損害賠償請求で回収できる可能性があります。また、収入が一定基準以下の場合は、法テラスの民事法律扶助制度を利用して費用の立替えを受けることも可能です。

特定までの期間とログ保存期間の重要性

新制度を利用した場合、加害者特定まで3ヶ月〜1年程度が目安となります。しかし、ここで最も注意すべきはログの保存期間です。

携帯キャリアは約3ヶ月、固定回線でも6ヶ月〜1年程度でIPアドレスの接続記録が削除されます。ログが消えてしまえば、たとえIPアドレスが判明しても誰が使用していたか特定不可能になります。被害に気づいたら、すぐに弁護士に相談し、「発信者情報消去禁止の仮処分」でログを保全してもらうことが成功の鍵となります。

IPアドレス開示請求が「意味ない」と言われるケースはありますか?

ログ保存期間を過ぎてしまった場合の対処法

開示請求が失敗する最大の原因は、ログ保存期間の超過です。特に携帯キャリアの3ヶ月という短い期間は、気づいた時には既に過ぎていることも珍しくありません。

このような場合でも、完全に諦める必要はありません。複数の投稿がある場合は、より新しい投稿のログが残っている可能性があります。また、投稿内容や時間帯、文体の特徴などから他の証拠と組み合わせて投稿者を推定できることもあります。まずは専門家に相談し、あらゆる可能性を探ることが重要です。

VPNや海外プロバイダを使用している場合

投稿者がVPN(仮想プライベートネットワーク)やTorなどの匿名化技術を使用している場合、開示されるIPアドレスは中継サーバーのものとなり、本当の発信元が隠されてしまいます。特に海外のサービスの場合、日本の法律が直接及ばないため、特定は非常に困難です。

ただし、全てのVPNサービスがログを保存していないわけではありません。サービスによっては、粘り強い交渉により開示に成功した事例もあります。また、投稿自体の削除請求を行い、被害の拡大を防ぐことは可能です。

フリーWi-Fiやネットカフェからの投稿

駅やカフェのフリーWi-Fi、ネットカフェからの投稿は、IPアドレスから施設の契約者情報しか特定できません。その時間に誰が利用していたかを個人レベルで特定することは、法的手続きだけでは困難です。

しかし、店舗の防犯カメラ映像とIPアドレスの接続時刻を照合することで、投稿者を絞り込める可能性があります。この場合は警察の捜査協力が必要となるため、刑事事件として立件できるほどの悪質性が求められます。

発信者を特定した後はどうすればいいですか?損害賠償請求の進め方

民事での損害賠償請求の方法

加害者の身元が特定できたら、まず内容証明郵便等の書面で損害賠償を請求するのが一般的です。請求できる損害は以下の通りです。

慰謝料は、誹謗中傷による精神的苦痛に対する賠償で、個人なら10〜50万円、事業者なら50〜100万円程度が相場です。また、開示請求にかかった弁護士費用も損害として請求できます。全額は認められない場合もありますが、調査費用として一定額が認められることが多いです。

示談交渉で解決すれば、裁判よりも早期に解決でき、謝罪文の掲載や今後の誹謗中傷禁止など、柔軟な条件を設定できるメリットがあります。

刑事告訴を検討すべきケース

投稿内容が「殺すぞ」などの脅迫や、名誉毀損・侮辱に該当する場合は、警察に刑事告訴することも可能です。ただし、名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪のため、犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴する必要があります。

刑事事件として立件されれば、加害者には罰金や懲役などの刑事罰が科せられます。ただし、刑事告訴をしても民事の損害賠償は別途請求する必要があることに注意が必要です。

もし自分が開示請求をされたら

プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた場合、無視せずに適切に対応することが重要です。回答しない場合、請求者の主張のみで判断され、情報が開示される可能性が高まります。

投稿内容が単なる意見や論評の範囲内である、公共性・公益性がある、真実であるなど、開示を拒否する正当な理由があれば、弁護士に相談の上、意見書を提出しましょう。

IPアドレス開示請求のよくある質問

弁護士に依頼せずにでも開示請求はできますか?

法的には可能ですが、現実的には非常に困難です。裁判所での複雑な手続きには専門的な法律知識が必要で、ログ保存期間という時間的制約の中で不備なく進めるのは至難の業です。初めから弁護士に依頼することを強くお勧めします。

スマホからの投稿でも特定されますか?

はい、パソコンと同じように特定可能です。スマートフォンもインターネット接続時には必ずIPアドレスが割り当てられます。Wi-Fi経由でも携帯回線経由でも、同じ手順で契約者を特定できます。

IPアドレスが変わっても特定されますか?

はい、特定可能です。一般的な動的IPアドレスは接続のたびに変わりますが、プロバイダは「いつ、どの契約者に、どのIPアドレスを割り当てたか」という記録を全て保管しています。投稿時刻が分かれば、その時間にそのIPアドレスを使用していた契約者を特定できます。

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