発信者情報開示請求の費用は相手に請求できますか?弁護士費用から費用倒れまで徹底解説
発信者情報開示請求にかかった費用は、損害賠償の一部として加害者に請求できます。特に2020年の東京高裁判決により、開示請求の弁護士費用全額が認められやすくなりました。ただし相手に支払い能力がない場合は費用倒れのリスクもあるため、事前に弁護士と相談することが重要です。
この記事では、開示請求にかかる具体的な費用から相手への請求方法、費用倒れを防ぐ対策まで、専門的な内容をわかりやすく解説していきます。
発信者情報開示請求にかかる費用はどのくらい?詳細な内訳と目安
発信者情報開示請求を検討する際、最初に気になるのが費用の問題です。実際にどのような費用がかかるのか、弁護士費用と裁判所の実費に分けて詳しく見ていきましょう。
弁護士に依頼した場合の費用目安
弁護士費用は事務所によって異なりますが、発信者情報開示請求では着手金と報酬金の2段階で費用が発生することが一般的です。まず相談料については、30分5,000円から10,000円程度が目安ですが、最近では初回無料相談を実施している事務所も増えています。
着手金は依頼時に支払う費用で、結果にかかわらず返金されません。サイト管理者への仮処分申立てで20万円から30万円、プロバイダへの開示請求訴訟でさらに20万円から30万円が目安となっています。報酬金は発信者の特定に成功した場合に支払う費用で、15万円から25万円程度が目安です。
これらを合計すると、発信者を特定するまでの一連の手続きで総額50万円から80万円程度かかることになります。ただし、海外企業が運営するSNSなど、事案が複雑な場合はさらに高額になる可能性があります。
裁判所に支払う実費の内訳と金額
弁護士費用とは別に、裁判手続きを進めるためには裁判所への実費も必要です。申立手数料は収入印紙で納付し、仮処分申立てで2,000円、発信者情報開示請求訴訟で13,000円となっています。
また郵便切手代として、裁判所が書類を郵送するための予納郵券を数千円から1万円程度納める必要があります。さらに仮処分手続きでは、担保金として10万円から30万円を供託することが求められます。この担保金は手続きが問題なく終われば全額返還されますが、一時的に用意する必要があるため注意が必要です。
新制度を利用した場合の費用メリット
2022年10月から始まった「発信者情報開示命令」制度を利用すると、費用面でのメリットが大きくなります。従来は2回の裁判手続きが必要でしたが、1つの手続きにまとめることができるため、弁護士の着手金も抑えられる可能性があります。
最大のメリットは原則として担保金が不要になることです。申立手数料も1,000円程度と安く、初期費用の負担が大幅に軽減されます。どの手続きを選ぶかは事案によって異なるため、弁護士と相談して最適な方法を選択することが大切です。
開示請求の費用は相手に請求できますか?法的根拠と判例
発信者情報開示請求に多額の費用がかかることはわかりましたが、この費用を加害者に請求できるかどうかは非常に重要な問題です。結論から言えば、請求は可能であり、近年の判例では全額認められるケースも少なくなくなってきました。
費用請求が認められる法的な理由
発信者情報開示請求の費用が損害として認められる理由は明確です。そもそも加害者の違法な投稿がなければ、被害者は発信者を特定する必要もなく、調査費用も発生しませんでした。つまり開示請求の費用は不法行為と直接的な因果関係があると評価されるのです。
この費用は精神的苦痛に対する慰謝料とは別に、財産的損害として請求することができます。民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権として、加害者に対して支払いを求めることが可能となっています。
全額請求を認めた重要判例の内容
従来は開示請求の弁護士費用について、その一部しか認められないケースが多くありました。しかし2020年1月23日の東京高等裁判所判決により、この流れが大きく変わりました。
この判決では、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用を「民事上の損害賠償請求をするために必要不可欠の費用」と位置づけました。そして「特段の事情のない限り、その全額を名誉毀損の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当」という判断を示したのです。
この判例以降、開示請求の弁護士費用については全額が損害として認められるケースが増えており、被害者にとって有利な状況となっています。
通常の訴訟費用との違いと注意点
ここで注意したいのは、開示請求後の損害賠償請求訴訟にかかる弁護士費用は扱いが異なることです。一般的な不法行為訴訟では、認められた賠償額の約1割程度しか弁護士費用として請求できないのが通例です。
しかし発信者情報開示請求は、加害者を特定しなければ損害賠償請求自体ができないという特殊性があります。この点が考慮され、開示請求の弁護士費用は「損害そのもの」として全額請求が認められやすいという特別な位置づけになっています。裁判所に納めた収入印紙代や郵便切手代などの実費についても、敗訴者負担の原則により相手に請求することが可能です。
費用倒れになるリスクはありますか?3つのパターンと対策
開示請求の費用を相手に請求できることはわかりましたが、現実には費用倒れになってしまうリスクも存在します。ここでは主な3つのパターンとその対策について詳しく解説します。
相手に支払い能力がない場合のリスク
最も深刻なケースは、加害者を特定して裁判で勝訴しても相手に支払い能力がまったくないという状況です。相手が無職であったり、多額の借金を抱えていたりする場合、判決を得ても実際にお金を回収することは極めて困難になります。
給与や預貯金を差し押さえる強制執行という手段はありますが、差し押さえるべき財産がなければ効果はありません。2020年の民事執行法改正により財産調査が以前より容易になりましたが、それでも「ない袖は振れない」という現実は変わりません。
このリスクを回避するためには、可能であれば事前に相手の属性や社会的地位をある程度推測し、回収可能性を検討することが重要です。企業や公的機関の関係者による投稿であれば、回収可能性は高まる傾向にあります。
慰謝料額が費用を下回る可能性
誹謗中傷に対する慰謝料の相場は、被害の内容によって異なります。名誉毀損やプライバシー侵害で10万円から50万円、侮辱では数万円から10万円程度が一般的な相場となっています。
仮に開示請求から損害賠償請求まで総額80万円の費用がかかったとして、認められた慰謝料が30万円だった場合を考えてみましょう。開示請求費用50万円が全額認められても、合計80万円で収支はトントンです。被害が比較的軽微な場合、経済的にはマイナスになる可能性があることは認識しておく必要があります。
対策としては、事前に法律相談をするなどして慰謝料の見込み額を確認し、費用対効果を慎重に検討することが大切です。複数回の投稿がある場合はまとめて請求することで、慰謝料額を増やせる可能性もあります。
発信者の特定に失敗するケース
最も避けたいのが、費用をかけたにもかかわらず発信者を特定できないケースです。失敗の最大の原因はプロバイダのログ保存期間を過ぎてしまうことです。多くのプロバイダは通信ログを3ヶ月から6ヶ月で消去してしまうため、この期間内に手続きを完了させる必要があります。
ログが消去されてしまえば、たとえ権利侵害が明白でも特定は不可能になります。この場合、それまでにかかった着手金や実費は返ってきません。そのため誹謗中傷を発見したら、できるだけ早く弁護士に相談することが重要です。証拠保全を確実に行い、迅速に手続きを進めることが成功の鍵となります。
費用を抑える方法はありますか?4つの具体的な方法
発信者情報開示請求の費用負担を軽減する方法はいくつか存在します。ここでは実践的な4つの方法を詳しく紹介していきます。
無料相談を活用した事前検討の重要性
多くの法律事務所では初回30分から60分の無料相談を実施しています。この機会を最大限に活用することで、費用をかける前に見通しを立てることができます。
無料相談では、開示請求が成功する見込みや費用倒れのリスク、総額でどれくらいの費用がかかるかを確認しましょう。複数の事務所に相談することで、より客観的な判断ができるようになります。また弁護士との相性も重要なため、信頼できる専門家を見つけることにもつながります。
相談の際は、問題となる投稿のスクリーンショットやURLなど、具体的な証拠を持参することで、より正確なアドバイスを受けられます。
法テラスの民事法律扶助制度の利用
経済的に弁護士費用の支払いが困難な場合は、法テラスの民事法律扶助制度が強い味方になります。収入や資産が一定の基準以下であれば、無料の法律相談に加えて、弁護士費用の立替えを受けることができます。
立て替えてもらった費用は月々5,000円から10,000円程度の分割返済が可能です。一括での支払いが難しい方でも、無理なく手続きを進められる制度となっています。利用には審査がありますが、まずは法テラスに相談してみる価値は十分にあります。
弁護士費用特約の確認と活用
意外と知られていませんが、自動車保険や火災保険に付帯している弁護士費用特約が、ネット上の誹謗中傷トラブルでも利用できる場合があります。
この特約を使えば、保険会社が弁護士費用を負担してくれます。上限は通常300万円程度に設定されているため、発信者情報開示請求の費用は十分にカバーできます。まずは加入している保険の契約内容を確認し、保険会社に問い合わせてみましょう。個人賠償責任保険やクレジットカードの付帯保険でも同様の特約がある場合があります。
着手金無料や分割払いへの対応
最近では着手金無料の完全成功報酬型や、費用の分割払いに対応する法律事務所も増えています。着手金無料の場合、発信者の特定に成功した場合のみ報酬が発生するため、初期費用の負担が大幅に軽減されます。
分割払いに対応している事務所では、月々の支払い額を相談して決められることが多く、経済状況に合わせた支払いプランを組むことができます。費用体系は事務所によって大きく異なるため、複数の事務所に問い合わせるなどして、自分に最適な支払い方法を提供してくれる事務所を選ぶことが大切です。
よくある質問
発信者情報開示請求の費用について、よく寄せられる質問にお答えします。
複数のサイトで誹謗中傷された場合、費用はどうなりますか?
サイトごとに別々の手続きが必要なため、費用は増加します。発信者情報開示請求は原則として、各サイト運営者、各プロバイダに対して個別に行う必要があるためです。
ただし同じサイト内の複数の投稿であれば、まとめて1つの手続きとして扱えることもあります。また法律事務所によっては、複数案件をまとめて依頼することで費用を調整してくれる場合もあります。トータルでどれくらいの費用になるか、事前に見積もりを取ることをおすすめします。
示談で解決した場合、費用は安くなりますか?
損害賠償請求訴訟の費用を省略できるため、総額は抑えられます。発信者を特定した後、訴訟ではなく示談交渉で解決すれば、訴訟のための着手金や成功報酬、裁判所への実費が不要になります。
ただし発信者情報開示請求にかかった費用は既に発生しているため、この部分は変わりません。示談交渉では開示請求費用も含めた金額で交渉することが一般的です。早期解決は双方にメリットがあるため、弁護士と相談しながら最適な解決方法を選択しましょう。
相手が未成年だった場合、費用請求はどうなりますか?
未成年者本人ではなく、親権者に対して請求することになります。未成年者には十分な資力がないことが多いため、法定代理人である親権者に監督義務者としての責任を追求することになる場合が多くなります。
ただし親権者も支払い能力がない場合は、費用倒れのリスクが高まります。また学校での集団いじめのケースなどでは、加害者が複数いることもあり、それぞれに対する請求額の配分など複雑な問題が生じることもあります。未成年者が相手の場合は、より慎重な対応が必要となるため、経験豊富な弁護士に相談してみることをおすすめします。
刑事告訴と並行した場合、費用はどうなりますか?
刑事告訴自体に費用はかかりませんが、民事の開示請求は別途必要です。警察に被害届を出しても、必ずしも捜査が進むとは限らず、民事での対応が必要になることが多いためです。
ただし刑事事件として立件された場合、捜査機関が発信者を特定してくれる可能性があります。この場合、民事訴訟では刑事記録を証拠として利用できるため、開示請求の手続きを省略できることもあります。刑事と民事を並行して進める場合の戦略については、弁護士と十分に相談してみることをおすすめします。
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