誹謗中傷で訴えることは難しい?費用と成功率を弁護士が解説
誹謗中傷を訴えることは確かに難しい面がありますが、2022年の法改正により手続きが簡素化され、成功事例も増えています。主な課題は投稿者の特定に3ヶ月〜1年程度かかることと、費用が50〜100万円程度必要なことです。しかし適切な証拠があれば、慰謝料と調査費用を加害者に請求できる可能性は十分あります。
誹謗中傷を訴えることが難しい3つの理由と対策
ネット上の誹謗中傷を訴えることが「難しい」と言われるのには、明確な理由があります。しかし、それぞれの問題には具体的な解決策が存在します。ここでは主要な3つの課題とその対策を詳しく解説します。
匿名の投稿者を特定する手続きの複雑さ
誹謗中傷の多くは匿名で行われるため、誰が書いたのか分からないという根本的な問題があります。投稿者を特定するには、まずサイト運営者からIPアドレスを開示してもらい、次にそのIPアドレスから通信会社に契約者情報の開示を求める必要があります。
この手続きで最も重要なのはログの保存期間です。通信会社がログを保存している期間は一般的に3〜6ヶ月と短く、この期間を過ぎると特定は事実上不可能になります。そのため、被害を受けたら迅速に行動することが不可欠です。
しかし、2022年10月に施行された改正プロバイダ責任制限法により、「発信者情報開示命令」という新しい手続きが導入されました。これにより、従来は別々に行う必要があった開示請求を一度の手続きでまとめて行えるようになり、特定までの期間が大幅に短縮されるケースが増えています。
費用倒れのリスクと経済的負担
誹謗中傷を訴える際の最大の懸念事項の一つが費用です。弁護士費用だけで50万円から100万円以上かかることも珍しくありません。一方で、裁判で認められる慰謝料は名誉毀損で10〜50万円、侮辱で数万円〜10万円程度が相場です。
この費用倒れのリスクを回避するためには、まず無料相談を活用して費用対効果を検討することが重要です。また、近年では発信者情報開示請求にかかった弁護士費用を調査費用として加害者に請求できる判例が増えています。
さらに、経済的に困難な場合は日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助制度を利用できる可能性もあります。この制度を利用すれば、弁護士費用を分割払いにすることができ、収入が一定以下の場合は費用の立て替えを受けることも可能です。
違法性の立証基準の厳しさ
単なる批判や悪口と、法的に違法な誹謗中傷の線引きは専門的な判断が必要です。名誉毀損が成立するには、具体的な事実を挙げて社会的評価を低下させる内容である必要があります。例えば「性格が悪い」といった抽象的な表現は、違法とまでは言えないと判断される可能性があります。
しかし、自己判断で諦める必要はありません。一見すると単なる悪口に見える「死ね」「消えろ」といった投稿も、侮辱罪として違法性が認められるケースがあります。重要なのは、投稿の文脈や執拗性、被害者への影響などを総合的に判断することです。
過去の裁判例では、短い言葉でも執拗に繰り返されたり、特定の個人を狙い撃ちにしたりしている場合は、違法性が認められやすい傾向にあります。まずは証拠を持って弁護士に相談し、専門家の見解を聞くことが重要です。
誹謗中傷を訴える具体的な手順と必要な期間
誹謗中傷に対する法的措置は、段階的に進める必要があります。ここでは実際の手順と、それぞれにかかる期間について詳しく解説します。
削除請求から始める被害拡大の防止
最初に行うべきは、問題の投稿を削除して被害の拡大を防ぐことです。削除請求には2つの方法があります。
まず、サイト管理者やSNS運営会社に対して任意での削除を依頼する方法です。各プラットフォームの通報機能や問い合わせフォームから申請できますが、運営側が権利侵害を明白と判断しない限り、削除に応じないケースも少なくありません。
任意削除が拒否された場合は、裁判所に削除仮処分を申し立てることになります。これは正式な裁判よりも迅速に判断が下される手続きで、通常1〜2ヶ月程度で結論が出ます。裁判所が削除を命じれば、運営会社はそれに従う義務が生じるため、確実な削除が見込めます。
削除請求を行う際は、投稿内容のスクリーンショットやURLなどの証拠を必ず保全しておくことが重要です。削除後は証拠が消えてしまうため、その後の損害賠償請求などに支障をきたす可能性があります。
発信者情報開示請求による投稿者の特定
削除だけでは根本的な解決にはならないこともあります。加害者に責任を取らせるためには、まず投稿者を特定する必要があります。この手続きが発信者情報開示請求です。
2022年10月の法改正により導入された新しい手続きでは、裁判所に対してサイト運営者へのIPアドレス開示と、通信会社への契約者情報開示を一体的に審理してもらうことができます。この手続きにかかる期間は通常3ヶ月〜1年程度です。
開示請求が認められると、投稿者の氏名、住所、メールアドレスなどが明らかになります。ただし、VPNや公共Wi-Fiを使用していた場合など、技術的に特定が困難なケースもあることは理解しておく必要があります。
特定に成功した場合、その情報をもとに損害賠償請求や刑事告訴などの次のステップに進むことができます。特定までの期間は長く感じるかもしれませんが、専門家のサポートがあれば着実に進めることができます。
損害賠償請求と示談交渉の流れ
投稿者が特定できたら、精神的苦痛に対する慰謝料と調査費用の賠償を求めることができます。まずは弁護士を通じて示談交渉を行うのが一般的です。
示談交渉では、被害の内容や証拠を示して、適切な金額での和解を目指します。交渉期間は通常1〜3ヶ月程度で、相手が誠実に対応すれば裁判をせずに解決できます。多くのケースでは、身元が判明した時点で加害者も事の重大さを認識し、示談に応じる傾向があります。
しかし、加害者が支払いを拒否したり、提示金額に大きな開きがある場合は民事訴訟を提起することになります。訴訟になった場合は、さらに6ヶ月〜1年半程度の期間が必要です。裁判では証拠に基づいて損害額が認定され、判決により支払いが命じられます。
誹謗中傷訴訟で必要な証拠と保全方法
訴訟を成功させるためには、適切な証拠を確実に保全することが最も重要です。証拠が不十分だと、せっかく時間と費用をかけても望む結果が得られない可能性があります。
有効な証拠となる情報と保存方法
誹謗中傷の証拠として有効なものにするためには、以下の4つの情報がすべて含まれている必要があります。
- 投稿内容の全文
- 投稿されたページのURL
- 投稿日時
- 投稿者のアカウント名やID
これらの情報を確実に記録するため、PCの画面全体のスクリーンショットを撮るか、ページ全体をPDF形式で保存することが推奨されます。スマートフォンで画面の一部だけを撮影したものは、改ざんの疑いを持たれる可能性があるため避けるべきです。
また、投稿が複数ある場合は、すべての投稿を個別に保存することが重要です。特に執拗性や悪質性を立証する上で、投稿の頻度や期間を示す証拠は重要な意味を持ちます。証拠保全は発見次第すぐに行い、できれば複数の方法で保存しておくことをお勧めします。
削除される前に行うべき緊急対応
ネット上の投稿は、投稿者がいつでも削除できるという特性があります。訴えようと準備している間に証拠が消されてしまうケースは少なくありません。
そのため、誹謗中傷を発見したらまず証拠保全を最優先に行う必要があります。感情的になって相手に直接抗議したり、削除を要求したりすると、かえって証拠隠滅を招く可能性があります。まずは冷静に証拠を保全し、その後で適切な法的措置を検討するという順序が重要です。
緊急性が高い場合は、公証役場で行う「事実実験公正証書」という方法もあります。これは公証人がウェブページの内容を確認し、公的な証明書を作成するもので、証拠としての信頼性が非常に高くなります。費用は数万円程度かかりますが、重要な証拠の場合は検討する価値があります。
証拠不足を補う追加資料の準備
投稿自体の証拠に加えて、被害の深刻さを示す追加資料があると、より説得力のある主張ができます。
例えば、誹謗中傷により精神的な不調をきたした場合は、医師の診断書が重要な証拠となります。不眠や食欲不振、うつ症状などが認められれば、慰謝料の増額要因になる可能性があります。また、仕事を休まざるを得なかった場合は、休業損害を請求するための収入証明書や勤務先の証明書も必要です。
さらに、誹謗中傷の影響で実生活に支障が出た場合は、その状況を日記やメモとして記録しておくことも有効です。いつ、どのような影響があったかを具体的に記録することで、被害の実態をより明確に示すことができます。
よくある質問
誹謗中傷を訴えることについて、多くの方が抱く疑問にお答えします。
誹謗中傷で訴える場合、相手に自分の個人情報は知られますか?
訴訟を起こす場合、原告として自分の氏名は相手に知られることになります。民事訴訟では、訴状に原告の氏名を記載する必要があり、これを隠すことは原則としてできません。
ただし、民事訴訟法の改正により令和5年2月から施行された住所・氏名等秘匿制度を利用すれば、住所・氏名等が相手方に知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合には、自らの住所・氏名を秘匿して民事訴訟等を提起することができるようになりました。
プライバシーの保護については、担当弁護士と十分に相談し、可能な限り個人情報を守りながら手続きを進める方法を検討することが重要です。特に、相手が執拗な嫌がらせを続けている場合は、より慎重な対応が必要になります。
誹謗中傷の時効はいつまでですか?
損害賠償請求の時効は、加害者と損害を知った時から3年です。ただし、投稿者が不明な場合は、投稿者を特定した時点から3年となります。
一方、刑事告訴の場合は、名誉毀損罪と侮辱罪で時効期間が異なります。名誉毀損罪は3年となっています。ただし、2022年の刑法改正により侮辱罪の法定刑が引き上げられたため、改正法施行後の行為については侮辱罪の時効も3年に延長されています。
時効が迫っている場合でも、内容証明郵便による催告や、調停の申立てなどにより時効を一時的に止めることができる場合があります。時効が心配な場合は、早めに弁護士に相談して適切な対応を取ることが重要です。
弁護士費用が払えない場合はどうすればいいですか?
法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、弁護士費用の立て替えを受けることができます。収入や資産が一定以下の方が対象で、審査に通れば費用を分割払いにすることが可能です。
月々の返済額は5,000円〜10,000円程度に設定されることが多く、生活保護受給者の場合は返済が免除される場合もあります。また、着手金なしで成功報酬のみという料金体系を採用している法律事務所もあるため、複数の事務所に相談して比較検討することをお勧めします。
さらに、クラウドファンディングを利用して訴訟費用を集める方法も近年では見られるようになっています。社会的に注目される事案であれば、支援を受けられる可能性もあります。経済的理由で諦める前に、まずは無料相談を活用して、利用できる制度や方法について確認してみてください。
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