誹謗中傷の境界線はどこ?訴えられる基準と対処法を弁護士監修で解説
誹謗中傷の境界線は「人格攻撃の有無」「根拠の有無」「公益性の有無」で判断されます。具体的には、相手の人格や容姿を攻撃する言葉は侮辱罪、嘘の事実を広める行為は名誉毀損罪に問われ、最大で拘禁刑3年の刑罰が科される可能性があります。SNSでの気軽な投稿も、内容次第では犯罪になるため、投稿前の確認が重要です。
誹謗中傷の境界線はどこにありますか?批判との違い
SNSで意見を発信することが日常的になった今、「これは批判?それとも誹謗中傷?」と判断に迷うケースが増えています。実は、両者の境界線には明確な基準があり、その違いを理解することで、法的トラブルを未然に防ぐことができます。
誹謗中傷と批判を分ける3つのポイント
誹謗中傷と批判の最も大きな違いは、相手の人格を攻撃しているか、それとも具体的な事柄について意見を述べているかという点にあります。
1つ目のポイントは「人格攻撃の有無」です。例えば、政治家の政策について「この法案は国民の負担が大きすぎる」と指摘するのは批判ですが、「こんな法案を出すなんて頭がおかしい」と書けば人格攻撃となり、誹謗中傷に該当する可能性が高まります。
2つ目は「根拠の有無」です。批判は客観的な事実やデータに基づいていますが、誹謗中傷は感情的で根拠がない、または虚偽の情報に基づいています。飲食店の口コミで「料理の提供時間が30分以上かかった」は事実に基づく批判ですが、「絶対に裏で手抜きしている」と根拠なく決めつければ誹謗中傷になり得ます。
3つ目は「公共性の有無」です。批判は改善や議論を目的としていますが、誹謗中傷は単に相手を傷つけることが目的です。この違いは、使用する言葉遣いや表現方法にも現れます。
SNSで気をつけるべき具体的な言葉の例
日常的に使いがちな言葉でも、SNS上で使用すると法的問題になる可能性があります。特に注意すべき言葉を具体的に見ていきましょう。
侮辱罪に該当しやすい言葉として、「バカ」「アホ」「無能」といった知能を否定する表現、「ブス」「デブ」「キモい」といった容姿を攻撃する表現があります。これらは相手の社会的評価を下げる言葉として、2022年の法改正により厳罰化された侮辱罪の対象となり、最大で1年以下の拘禁刑が科される可能性があります。
また、「死ね」「消えろ」といった表現は、文脈によっては脅迫罪として扱われることもあります。たとえ冗談のつもりでも、相手が恐怖を感じれば犯罪が成立します。
一方で、「この商品は使いにくかった」「サービスが期待外れだった」といった個人の感想は、誹謗中傷には該当しません。ただし、「こんな商品を作る会社は詐欺師集団だ」のように、感想を超えて企業の信用を毀損する表現になると、業務妨害罪に問われる可能性があります。
匿名投稿でも特定される理由
「匿名だから何を書いてもバレない」と考えている人は多いですが、これは大きな誤解です。実際に、匿名掲示板やSNSでの誹謗中傷で投稿者が特定され、損害賠償を命じられるケースは年々増加しています。
投稿者の特定は「発信者情報開示請求」という法的手続きによって行われます。被害者が通常弁護士を通じて裁判所に申し立てを行うと、サイト運営者にIPアドレスやタイムスタンプの開示を求めることができます。さらに、そのIPアドレスからプロバイダを特定し、契約者情報の開示を求めることで、最終的に投稿者の氏名や住所が判明します。
2022年10月の法改正により、この手続きがより迅速に行えるようになりました。以前は特定までに1年以上かかることもありましたが、現在は数ヶ月で特定できるケースも増えています。また、プロバイダのログ保存期間も考慮され、迅速な手続きが可能になったことで、「時間が経てば証拠が消える」という逃げ道もなくなりました。匿名性は決して免罪符にはならないのです。
誹謗中傷はどんな罪に問われますか?5つの犯罪類型
誹謗中傷という言葉自体は法律用語ではありませんが、その内容によって様々な犯罪に該当する可能性があります。ここでは、誹謗中傷で問われる可能性がある5つの犯罪について、具体的に解説します。
名誉毀損罪と侮辱罪の違い
誹謗中傷で最も問われやすいのが名誉毀損罪と侮辱罪ですが、両者には明確な違いがあります。その違いは「具体的な事実を挙げているかどうか」という点です。
名誉毀損罪は、具体的な事実を挙げて他人の社会的評価を低下させる行為です。例えば「Aさんは不倫している」「B社は脱税している」といった投稿がこれに該当します。驚くべきことに、その内容が真実であっても名誉毀損罪は成立します。ただし、公共の利害に関する事実で、公益目的があり、真実である場合は例外的に罰せられません。法定刑は3年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金です。
一方、侮辱罪は具体的な事実を挙げずに相手を侮辱する行為です。「バカ」「無能」といった抽象的な悪口がこれに該当します。2022年の法改正により厳罰化され、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
両罪とも「公然と」行われることが要件となっており、不特定多数が閲覧できるSNSやネット掲示板での投稿は、この要件を満たします。
脅迫罪や業務妨害罪になるケース
誹謗中傷の内容によっては、より重い犯罪に問われることがあります。
脅迫罪は、相手やその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に害を加える旨を告知した場合に成立します。「お前を殺す」「家に火をつけてやる」といった直接的な脅しはもちろん、「住所を特定したぞ」「家族の写真を持っている」といった間接的な脅しも該当する可能性があります。脅迫罪は「公然と」行われる必要がないため、DMやメールでの1対1のやり取りでも成立し、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。
業務妨害罪は、虚偽の情報を流したり(偽計業務妨害)、脅迫的な言動を用いたり(威力業務妨害)して、他人の業務を妨害した場合に成立します。例えば、飲食店に対して「この店の料理には虫が入っている」という虚偽の口コミを投稿したり、「爆破する」という脅迫電話をかけたりする行為が該当します。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と、名誉毀損罪と同等の重さです。
民事責任としての慰謝料請求
刑事罰とは別に、誹謗中傷は民事上の不法行為として損害賠償請求の対象にもなります。
慰謝料の金額は、誹謗中傷の内容の悪質性、拡散の程度、被害者が受けた精神的苦痛の度合いなどを総合的に考慮して決定されます。一般的な相場として、侮辱的な内容であれば数万円から10万円程度、名誉毀損に該当する内容であれば10万円から100万円程度となることが多いです。
ただし、被害者が著名人や企業の場合、社会的影響が大きいため、より高額な賠償が認められることがあります。実際に、有名人への誹謗中傷で数百万円の賠償命令が出された事例も存在します。
また、慰謝料以外にも、投稿者を特定するためにかかった弁護士費用や調査費用についても、加害者に請求することが可能です。これらを合計すると、軽い気持ちで行った誹謗中傷が、100万円を超える経済的負担につながることも珍しくありません。
誹謗中傷の被害に遭ったらどうすればいいですか?
もしあなたがネット上で誹謗中傷の被害に遭ってしまったら、感情的にならず、冷静に対処することが重要です。適切な手順を踏むことで、被害を最小限に抑え、加害者に責任を取らせることができます。
まず行うべき証拠保全の方法
誹謗中傷の被害に遭ったら、最優先で行うべきは証拠の保全です。投稿はいつ削除されるかわからないため、発見次第すぐに記録を残す必要があります。
証拠保全の基本は、スクリーンショットの撮影です。単に投稿内容だけでなく、投稿日時、投稿者のアカウント名、URLが全て写るように撮影することが重要です。スマートフォンの場合は、画面上部の時刻表示も含めて撮影すると、いつ証拠を取得したかが明確になります。
また、ウェブ魚拓などのアーカイブサービスを利用すれば、ウェブページ全体を第三者のサーバーに保存でき、改ざんが困難な強力な証拠となります。URLをコピーしてサービスに登録するだけで、簡単に保存できます。
動画での誹謗中傷の場合は、画面録画機能を使って保存します。YouTubeのコメント欄など、次々に新しいコメントで流れてしまう場合は、問題のコメントが表示されている状態を確実に記録しておくことが大切です。これらの証拠は、後の削除依頼や法的手続きで必ず必要になるため、複数の方法で保存しておくことをお勧めします。
削除依頼から発信者情報開示まで
証拠を確保したら、次は投稿の削除と投稿者の特定を進めます。
まず、各プラットフォームの通報機能や削除申請フォームを利用して、投稿の削除を依頼します。X(旧Twitter)、Instagram、YouTubeなどの主要なSNSには、それぞれ専用の報告システムが用意されています。削除依頼の際は、どの投稿が、どのような権利侵害にあたるのかを具体的に説明する必要があります。
削除依頼が認められない場合や、投稿者に責任を追及したい場合は、発信者情報開示請求を行います。これは裁判所を通じた法的手続きで、まずサイト運営者からIPアドレスを開示してもらい、次にそのIPアドレスを基にプロバイダから契約者情報を開示してもらうという2段階の手続きです。
2022年10月の法改正により、従来は別々に行っていた2つの手続きを一つにまとめる「非訟手続」が新設され、より迅速な開示が可能になりました。ただし、この手続きには専門的な法律知識が必要なため、通常は弁護士に依頼して進めることになります。
弁護士に相談するタイミング
誹謗中傷の被害について、いつ弁護士に相談すべきか迷う方も多いでしょう。結論から言えば、被害を認識した時点で早めに相談することをお勧めします。
特に以下のようなケースでは、速やかに弁護士への相談を検討すべきです。まず、投稿内容が執拗で継続的な場合や、複数のアカウントから攻撃を受けている場合です。また、「殺す」「家を特定した」など、身の危険を感じる内容が含まれている場合は、警察への相談と並行して弁護士にも相談しましょう。
弁護士に依頼することで、法的な観点から最適な対応策を提案してもらえます。削除依頼の文書作成から、発信者情報開示請求、示談交渉、訴訟まで、全ての手続きを代理で行ってもらえるため、精神的な負担も大幅に軽減されます。
初回相談は無料で対応している法律事務所も多く、また法テラスなどの公的機関を利用すれば、経済的な負担を抑えながら相談することも可能です。一人で悩まず、専門家の力を借りることが、問題解決への近道となります。
加害者にならないための投稿前チェックリスト
誰もが情報発信者になれる時代だからこそ、一人ひとりが責任を持って発信することが求められています。ここでは、あなたが意図せず加害者にならないための具体的な方法を紹介します。
感情的な投稿を防ぐ3秒ルール
怒りや苛立ちを感じたとき、その感情をそのままSNSにぶつけたくなることがあるかもしれません。しかし、感情的な投稿の多くは、後から見返すと過激で不適切な表現になっていることがほとんどです。
そこでお勧めしたいのが「3秒ルール」です。投稿ボタンを押す前に3秒間待ち、その間に「この投稿を自分が受け取ったらどう感じるか」「家族や友人に見られても恥ずかしくないか」「1年後の自分が見ても後悔しないか」を自問自答してください。
特に深夜の時間帯は判断力が鈍りやすく、感情的な投稿をしやすい傾向があります。議論が白熱したり、誰かの投稿に腹が立ったりしたときは、一度スマートフォンを置いて深呼吸し、翌朝改めて考えることも大切です。実際、翌朝になると「投稿しなくてよかった」と思うケースがほとんどです。
また、下書き機能を活用することも有効です。感情的になった時は一旦下書きに保存し、時間を置いてから見直すことで、冷静な判断ができるようになります。
事実確認と情報拡散の責任
SNSで話題になっている情報を見ると、すぐにシェアしたくなることもあるでしょう。しかし、その情報が虚偽だった場合、拡散した人も責任を問われる可能性があります。
情報を拡散する前に確認すべきポイントは3つあります。1つ目は情報源の信頼性です。公的機関や大手メディアの公式発表なのか、それとも個人の投稿なのかを確認しましょう。2つ目は複数の情報源での確認です。1つの情報源だけでなく、複数のメディアで報じられているかをチェックします。3つ目は日付の確認です。古い情報が再拡散されているケースも多いため、いつの情報なのかを必ず確認してください。
特に個人や企業の不祥事に関する情報は、慎重に扱う必要があります。「〜らしい」「〜かもしれない」といった不確かな情報であっても、リツイートやシェアによって拡散に加担すれば、名誉毀損の共犯として責任を問われる可能性があります。情報の真偽が確認できない場合は、拡散を控えることが賢明です。
もし誹謗中傷してしまったときの対処法
万が一、投稿後に「これは誹謗中傷だったかもしれない」と気づいた場合、放置することが最も危険です。早期の適切な対応により、問題が大きくなる前に解決できる可能性があります。
まず行うべきは、問題となる投稿の速やかな削除です。削除しても証拠は残る可能性がありますが、これ以上の被害拡大を防ぐことができます。そして可能であれば、同じプラットフォーム上で謝罪の意を表明することも検討しましょう。
相手と直接連絡が取れる場合は、誠心誠意の謝罪を行います。言い訳や自己正当化は避け、自分の非を認めて謝罪することが大切です。感情的な対立がある場合は、第三者を介した方が円滑に進むこともあります。
すでに相手から削除要請や損害賠償請求を受けている場合は、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。初期対応を誤ると、かえって事態を悪化させる可能性があります。弁護士が代理人として示談交渉を行うことで、適切な解決を図ることができます。過ちを認めて真摯に対応することが、最も建設的な解決への道となります。
よくある質問
誹謗中傷に関する疑問について、多くの方が気になる質問にお答えします。
伏せ字を使えば大丈夫ですか?
伏せ字やイニシャルを使っても、個人が特定できれば誹謗中傷として法的責任を問われます。
「〇田△郎」のような伏せ字や「T.Y」といったイニシャル表記をしても、前後の文脈、過去の投稿内容、その他の情報から誰のことを指しているか分かる場合は、実名を出したのと同じように扱われます。裁判所は表面的な表記方法ではなく、一般の読者が見て誰のことか特定できるかという「同定可能性」を重視して判断します。
例えば、「某大手IT企業のS社長」と書いた場合、その企業名や時期から容易に個人が特定できれば、名誉毀損罪などが成立する可能性があります。また、芸能人のニックネームや愛称を使った場合も同様です。「あの俳優」「例の議員」といった表現でも、文脈から明らかに特定の人物を指していれば、法的責任を免れることはできません。
本当のことを書いても罪になりますか?
事実であっても、他人の社会的評価を低下させる内容を公表すれば名誉毀損罪に問われる可能性があります。
名誉毀損罪は内容の真偽を問いません。たとえ真実であっても、「Aさんは過去に逮捕歴がある」「Bさんは借金がある」といった情報をネット上に書き込めば、その人の社会的評価を低下させるため、罪に問われる可能性があります。これは多くの人が誤解しているポイントです。
ただし、例外として「公共の利害に関する事実」で「公益を図る目的」があり「内容が真実」という3つの条件を全て満たす場合は、違法性が阻却されます。例えば、政治家の汚職を告発する場合などがこれに該当します。しかし、一般人の私生活に関する情報は、たとえ真実であってもこの例外には該当しないことがほとんどです。プライバシーに関わる情報の暴露は、民事上の不法行為としても損害賠償請求の対象となります。
慰謝料の相場はいくらぐらいですか?
一般的には数万円から100万円程度ですが、内容の悪質性や被害者の立場によって大きく変動します。
慰謝料の金額は画一的に決まっているわけではなく、誹謗中傷の内容、拡散の程度、継続期間、被害者が受けた精神的苦痛などを総合的に考慮して裁判所が判断します。侮辱的な内容であれば数万円から10万円程度、名誉毀損に該当する内容であれば10万円から100万円程度が一般的な相場です。
ただし、被害者が著名人や社会的地位の高い人物の場合、また企業の場合は、より高額になる傾向があります。実際に、タレントへの誹謗中傷で300万円以上の賠償命令が出された事例もあります。さらに、慰謝料以外にも、投稿者を特定するための弁護士費用や調査費用(数十万円程度)も加害者の負担となることが多く、トータルでは100万円を超えることも珍しくありません。継続的で悪質な誹謗中傷の場合は、さらに高額な賠償が認められることもあるため、軽い気持ちでの投稿が人生を左右する大きな負債となる可能性があることを認識しておく必要があります。
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