家の相続放棄はどうすればいい?2023年民法改正後の手続きと費用を徹底解説
家の相続放棄は、借金などマイナス財産が多い場合や維持管理が困難な場合に有効な選択肢です。ただし2023年の民法改正により管理責任のルールが変わり、「現に占有」している場合は相続放棄後も保存義務が残ります。手続きは相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で行い、費用は自分で行えば約1万円、 法律の専門家に依頼すると3〜15万円程度かかります。
親から実家を相続することになったものの、遠方で管理が難しい、老朽化が進んでいる、固定資産税の負担が大きいといった悩みを抱える方が増えています。この記事では、家の相続放棄を検討している方に向けて、判断基準から具体的な手続き、費用、そして相続放棄以外の選択肢まで詳しく解説します。
家の相続放棄はいつすべき?判断基準と2023年民法改正のポイント
相続放棄は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がない法的手続きです。「家だけ」「借金だけ」といった特定の財産を選んで放棄することはできません。まずは、どのような場合に相続放棄を検討すべきか、そして2023年の民法改正で何が変わったのかを理解しましょう。
相続放棄を検討すべき3つのケース
相続放棄を具体的に検討すべきケースは主に3つあります。
1つ目は、明らかに借金が財産を上回る場合です。 親が事業の連帯保証人になっていたり、多額のローンを抱えていたりする場合、相続するとその借金もすべて引き継ぐことになります。プラスの財産を差し引いてもマイナスが残る場合は、相続放棄が最も有効な選択肢となります。
2つ目は、家の維持管理費用が負担になる場合です。 地方の実家で買い手が見つからない、老朽化が激しく修繕費用がかさむ、固定資産税だけで年間数十万円かかるといった状況では、相続することがかえって経済的な負担となります。将来的な解体費用(木造でも100万円以上)を考慮すると、相続放棄を検討する価値があります。
3つ目は、物理的・精神的に管理が困難な場合です。 遠方に住んでいて定期的な管理ができない、他の相続人と関係が悪く話し合いが難しいといった状況も、相続放棄を検討する理由になります。管理不全の空き家は近隣トラブルの原因となり、最悪の場合は損害賠償責任を問われる可能性もあります。
2023年民法改正で変わった管理責任のルール
2023年4月1日に施行された改正民法により、相続放棄後の管理責任(保存義務)のルールが大きく変更されました。
改正前は、相続放棄をしても次の管理者が現れるまで無期限に管理責任を負う可能性がありました。しかし改正後は、「放棄の時に相続財産を現に占有している者」に限定されたのです。
例えば、被相続人と同居していた場合や、別居でも鍵を預かって定期的に管理していた場合は「現に占有している」と判断される可能性が高くなります。一方、遠方に住んでいて実家に一切関与していない場合は、相続放棄後の保存義務を負わずに済むことになりました。
この改正により、相続放棄のハードルは下がりましたが、同居していた相続人にとっては依然として管理責任が残る点に注意が必要です。
3ヶ月の期限を過ぎるとどうなる?
相続放棄には「相続の開始を知った時から3ヶ月以内」という厳格な期限があります。これを「熟慮期間」と呼びます。
この期限を過ぎてしまうと、自動的に「単純承認」したとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することになります。後から多額の借金が見つかっても、もはや相続放棄はできません。
ただし、財産調査に時間がかかる場合は、家庭裁判所に申し立てることで熟慮期間を延長してもらえる可能性があります。相続が発生したら、まず財産の全体像を把握することから始め、必要に応じて法律の専門家に相談しながら期限内に判断することが重要です。
家を相続放棄する手続きの流れと必要な費用はどのくらい?
相続放棄を決めたら、具体的にどのような手続きが必要で、いくら費用がかかるのでしょうか。ここでは、手続きの流れと費用、そして絶対に避けるべきNG行為について解説します。
相続放棄の手続き4ステップ
相続放棄の手続きは、以下の4つのステップで進めます。
ステップ1:必要書類の収集
まず相続放棄申述書(裁判所のウェブサイトでダウンロード可能)と、被相続人の住民票除票、申述人の戸籍謄本、被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本を集めます。相続関係によっては、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本が必要になることもあります。
ステップ2:家庭裁判所への申し立て
書類が揃ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てを行います。収入印紙800円分(相続人数分)と連絡用の郵便切手(裁判所により異なるが数百円程度)が必要です。
ステップ3:照会書への回答
基本的に申し立てから1〜2週間後に裁判所から照会書が届きます。「相続放棄は自分の意思か」「財産を処分していないか」といった質問に正確に回答し、期限内に返送します。
ステップ4:受理通知書の受領
問題がなければ相続放棄申述受理通知書が郵送されてきます。これで手続きは完了です。借金がある場合、この通知書は債権者への対抗要件となるため、大切に保管してください。
自分で手続きする場合と専門家に依頼する場合の費用比較
相続放棄の手続きは自分でも行えますが、法律の専門家に依頼することも可能です。
| 依頼先 | 費用の目安 | メリット・デメリット |
|---|---|---|
| 自分で行う | 約1万円(実費のみ) | 費用を抑えられるが、書類収集や期限管理の負担がある |
| 司法書士に依頼 | 3〜7万円+実費 | 手続きを任せられ、費用も比較的安い |
| 弁護士に依頼 | 5〜15万円+実費 | 複雑な案件にも対応でき、法的アドバイスも受けられる |
書類の収集に不安がある場合や、期限が迫っている場合は、法律の専門家への依頼を検討しましょう。 特に戸籍謄本の収集は思いのほか時間がかかることがあり、手続きは相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月の期限を過ぎてしまうリスクを考えると、法律の専門家に依頼する価値は十分にあります。
相続放棄が認められないNG行為とは
相続放棄を検討している場合、以下の行為は絶対に避けてください。これらの行為をすると「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなります。
特に注意すべきは、実家の片付けや遺品整理です。 価値のあるものを処分したり売却したりすると、財産を処分したとみなされます。生ゴミなど明らかに価値のないものの処分は問題ありませんが、家具や家電、貴金属などは絶対に手を付けてはいけません。
また、被相続人名義の預貯金を引き出して葬儀費用以外で使用する、不動産の名義変更をする、遺産分割協議に参加するといった行為も単純承認とみなされます。火災保険を解約して返戻金を受け取ることも同様です。
判断に迷う場合は、何もしないのが最も安全です。どうしても片付けが必要な場合は、事前に法律の専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄後の家はどうなる?管理責任と放置するリスク
相続放棄をしたら、その後の家はどうなるのでしょうか。また、管理責任は本当になくなるのでしょうか。ここでは、相続放棄後の家の行方と、知っておくべきリスクについて解説します。
「現に占有」している場合の保存義務
2023年の民法改正により、相続放棄後も保存義務を負うのは「現に占有している」場合に限定されました。
では「現に占有している」とは具体的にどのような状態でしょうか。被相続人と同居していた場合は、ほぼ確実に該当します。 別居でも、鍵を預かって自由に出入りできる状態にあったり、定期的に管理(清掃や庭の手入れなど)を行っていたりした場合も、占有していると判断される可能性が高いです。
一方、遠方に住んでいて実家に一切関与していない、鍵のありかも知らないという場合は、占有していないと判断され、保存義務を負わずに済むでしょう。
保存義務がある場合、家の老朽化による事故で第三者に損害を与えると、損害賠償責任を問われる可能性があります。 例えば、屋根瓦が落下して通行人にケガをさせた、ブロック塀が倒れて隣家の車を破損させたといったケースです。
全員が相続放棄した場合の手続きと費用
相続人全員が相続放棄をすると、その家は最終的に国のもの(国庫帰属)となります。ただし、自動的に国のものになるわけではありません。
利害関係者が家庭裁判所に申し立てを行い、「相続財産清算人」を選任する必要があります。 この清算人が財産を現金化し、債権者への支払いなどを行った後、残った財産が国庫に帰属します。
問題は、この手続きにかかる費用です。申立て費用とは別に、裁判所に「予納金」として20万円から100万円程度を納める必要がある場合があります。 これは清算人の報酬や管理費用に充てられるもので、相続財産で賄えない場合は申立人が負担しなければなりません。
保存義務から完全に解放されたい場合はこの手続きが必要ですが、高額な費用がかかる点は覚悟しておく必要があります。
特定空き家に指定されるリスク
相続放棄後も保存義務がある状態で家を放置すると、自治体から「特定空き家」に指定される可能性があります。
特定空き家とは、倒壊の危険がある、衛生上有害である、景観を著しく損なうなどの状態にある空き家のことです。指定されると、自治体から改善の指導・勧告・命令が出され、従わない場合は最大50万円の過料が科されます。
さらに深刻なのは、行政代執行により強制的に解体され、その費用を請求される可能性があるというリスクです。 解体費用は木造住宅でも100万円以上、大きな家なら数百万円に及ぶこともあります。相続放棄をしていても、保存義務がある限りこの費用から逃れることはできません。
相続放棄以外にどんな選択肢がある?売却や生前対策のメリット
相続放棄がすべての問題を解決する万能な手段ではありません。状況によっては、他の選択肢の方が良い結果につながることもあります。ここでは、相続放棄以外の賢い選択肢について解説します。
相続して売却する場合の税制優遇
家に一定の資産価値が見込める場合は、相続した上で売却する方がメリットが大きいことがあります。
最大のメリットは、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(通称:空き家特例)と呼ばれる税制優遇を受けられる点です。 相続した空き家を一定の要件を満たして売却すると、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。これにより、売却益にかかる税金を大幅に軽減できます。
ただし、この特例を受けるには「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売却する必要があります。また、昭和56年5月31日以前に建築された家であること、相続開始直前まで被相続人だけが居住していたことなど、いくつかの要件があります。
売却を検討する場合は、まず不動産会社に査定を依頼し、実際にいくらで売れそうか確認することから始めましょう。
相続土地国庫帰属制度の利用条件
2023年4月に始まった「相続土地国庫帰属制度」は、相続した不要な土地を国に引き取ってもらえる制度です。
相続放棄と違い、土地だけを手放せるのが最大の特徴です。他の財産は相続したいが、管理の難しい土地だけは手放したいという場合に有効です。
ただし、利用するには厳しい要件をクリアする必要があります。建物が建っている土地は対象外で、更地にする必要があります。また、境界が明確でない、土壌汚染がある、崩落の危険性のある崖地であるといった土地も対象外です。
さらに、審査手数料1万4,000円に加え、10年分の管理費相当額として原則20万円の負担金を納める必要があります。山林や農地の場合はさらに高額になることもあります。
親が元気なうちにできる生前対策
最も理想的なのは、相続が発生する前に対策を講じることです。 親が元気なうちに家族で話し合い、以下のような対策を検討しましょう。
生前売却は、親の意思で家を売却し現金化する方法です。売却代金は親の老後資金として活用でき、相続時には現金として分けやすくなります。認知症になると売却が困難になるため、判断能力があるうちに進めることが重要です。
家族信託は、親が元気なうちに子どもに財産の管理を任せる仕組みです。認知症対策として有効で、親の判断能力が低下しても子どもの判断で売却などができます。ただし、信託契約の作成には専門知識が必要で、費用もかかります。
遺言書の作成も重要です。誰にどの財産を相続させるか明確にしておくことで、相続時のトラブルを防げます。特に実家を誰が相続するか、売却する場合の手続きをどうするかなど、具体的に記載してもらうと良いでしょう。
よくある質問
最後に、家の相続放棄に関してよく寄せられる質問にお答えします。
家だけ相続放棄することはできますか?
できません。相続放棄は、すべての財産を放棄する手続きです。
「実家は要らないが預貯金は相続したい」「借金は放棄したいが家は相続したい」といった、特定の財産だけを選んで相続したり放棄したりすることは認められていません。
どうしても一部の財産だけを相続したい場合は、「限定承認」という別の手続きがあります。これは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法ですが、相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑なため、実際に利用されるケースは稀です。
相続放棄した家に住み続けることはできますか?
原則として、相続放棄した家に住み続けることはできません。
相続放棄をすると、その家は自分の所有物ではなくなります。ただし、被相続人と同居していた配偶者には「配偶者短期居住権」が認められており、遺産分割が確定する日または相続開始から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで、無償で住み続けることができます。
それ以外の相続人の場合、相続財産清算人が選任されれば、その管理者と立ち退きについて話し合うことになります。勝手に住み続けると不法占拠となる可能性があるため、注意が必要です。
相続放棄の手続きは自分でできますか?
はい、自分で手続きすることは可能です。ただし、期限や書類の不備には十分注意が必要です。
相続放棄の手続き自体は、必要書類を集めて家庭裁判所に提出すれば完了します。費用も実費1万円程度で済みます。
ただし、戸籍謄本の収集には思いのほか時間がかかることがあります。また、照会書への回答を誤ると相続放棄が認められないリスクもあります。手続きは相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月の期限を過ぎると取り返しがつかなくなる恐れもあるため、少しでも不安がある場合は司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
特に、財産調査が必要な場合、債権者との交渉がある場合、他の相続人とトラブルになりそうな場合は、最初から法律の専門家に依頼した方が安心でしょう。
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