離婚時の退職金は財産分与の対象になりますか?計算方法と請求手続きを解説

離婚時の退職金は、婚姻期間に対応する部分について原則2分の1が財産分与の対象となります。すでに支払われた退職金だけでなく、将来支給される予定の退職金も、支給の確実性が高ければ請求可能です。計算方法は「退職金額×(婚姻期間÷勤続期間)×1/2」が基本となり、請求は離婚から2年以内に行う必要があります。
退職金は財産分与の対象になりますか?基本知識と判断基準

離婚を考え始めたとき、将来の生活設計において退職金は重要な要素となります。まずは退職金が財産分与の対象になる理由と、その判断基準について理解しておきましょう。
退職金が財産分与の対象となる理由
退職金が財産分与の対象となる最大の理由は、給与の後払いという性質を持つためです。毎月の給与が夫婦の共有財産となるのと同様に、退職金も婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産とみなされます。
たとえば、夫が長年勤務を続けられた背景には、妻が家事や育児を担い家庭を支えてきた貢献があります。このような夫婦双方の協力によって形成された財産であるため、退職金は財産分与の対象となるのです。財産分与の割合は原則として2分の1とされており、専業主婦(主夫)であっても、家事・育児を通じた貢献は収入を得た側と同等に評価されます。
すでに支払われた退職金と将来の退職金の違い
退職金の財産分与は、支払い状況によって扱いが異なります。
すでに支払われている場合、預貯金などの形で現存している退職金の残額が財産分与の対象となります。たとえば、退職金2,000万円が振り込まれ、別居時に1,500万円が残っていれば、その1,500万円が分与対象です。ただし、すでに生活費などで使い込まれ手元に残っていない場合は、原則として請求できません。
将来支給される場合でも、支給の蓋然性(確実性)が高ければ財産分与の対象となります。退職が10年以上先であっても諦める必要はありません。重要なのは、将来退職金が支払われる確実性がどの程度あるかという点です。
財産分与の対象になるかの判断基準
将来の退職金が財産分与の対象となるかは、以下の要素から総合的に判断されます。
勤務先の安定性が最も重要な要素です。大企業や公務員など、倒産リスクが低く経営が安定している勤務先ほど、支給の蓋然性は高いと判断されます。特に公務員の場合、法律や条例に基づいて退職金が支給されるため、極めて高い確実性があると評価されます。
次に重視されるのが定年までの期間です。一般的に定年まで10年以内であれば対象として認められやすく、それを超える場合でも、公務員など職業の安定性が高ければ認められる傾向にあります。勤続年数が長く、退職金規程が明確に定められていることも重要な判断材料となります。
一方、婚姻前の勤務期間に対応する部分は特有財産として対象外となります。勤続30年のうち婚姻期間が20年であれば、婚姻前の10年分は財産分与の対象にはなりません。
退職金の財産分与額はどう計算しますか?具体的な計算方法
退職金の財産分与額を正確に把握することは、適切な請求を行うために不可欠です。ここでは、状況別の計算方法を具体例とともに解説します。
すでに支払われた退職金の計算方法
支払い済みの退職金の財産分与額は、以下の計算式で求められます。
分与額 = 支払われた退職金額 × (婚姻期間 ÷ 勤続期間) × 1/2
たとえば、退職金2,000万円、勤続35年、婚姻期間25年の場合、計算は次のようになります。2,000万円 × (25年 ÷ 35年) × 1/2 = 約714万円が分与請求額となります。
計算において注意すべき点は、基準時が別居時であることです。別居によって夫婦の協力関係は終了したとみなされるため、婚姻期間は入籍日から別居開始日までで計算します。また、退職金が他の預貯金と混在している場合は、通帳の取引履歴などから退職金の残額を明確に証明する必要があります。
将来支給される退職金の計算方法
将来の退職金については、主に2つの計算方法があります。
離婚時に自己都合退職したと仮定する方法が最も一般的です。別居時点で自己都合退職した場合の退職金額を基準に計算します。たとえば、勤続20年、婚姻期間15年で、自己都合退職時の退職金が800万円の場合、800万円 × (15年 ÷ 20年) × 1/2 = 300万円が分与額となります。
もう一つは定年退職時の見込額を基準とする方法です。定年が間近な場合に採用されることが多く、より高額な分与額になる傾向があります。ただし、将来の金銭を前倒しで受け取るため、民法の法定利率(年3%)で中間利息を控除する必要があり、実際の受取額は減額されます。
どちらの計算方法を選ぶべきか
計算方法の選択は、立場によって有利・不利が変わります。
請求する側の視点では、定年時見込額基準の方が分与額は高くなりますが、中間利息控除により減額されます。一方、自己都合退職仮定では分与額は低めになるものの、確実に受け取れるメリットがあります。
支払う側の視点では、自己都合退職仮定の方が支払額を抑えられ、将来のリスクも負わずに済みます。実際の交渉では、請求側は定年時見込額を、支払側は自己都合退職額を主張することが多く、最終的には双方の合意や裁判所の判断で決まります。
定年までの期間、勤務先の安定性、当事者の年齢などを総合的に考慮し、最も公平と考えられる方法を選択することが重要です。弁護士などの専門家に相談しながら、ご自身のケースに最適な計算方法を検討することをおすすめします。
退職金の財産分与はどう請求しますか?手続きの流れと注意点
退職金の財産分与を確実に受け取るためには、適切な手続きを踏むことが重要です。ここでは、情報収集から法的手続きまでの具体的な流れを解説します。
必要な情報収集と話し合いの進め方
まず最初に行うべきは退職金に関する正確な情報の収集です。相手の協力が得られる場合は、就業規則や退職金規程、給与明細、退職金試算表などの資料を開示してもらいましょう。これらの資料により、退職金制度の有無や計算方法、支給見込額を把握できます。
情報が揃ったら、夫婦間での話し合い(協議)を始めます。計算方法や支払時期、支払方法について具体的に話し合い、合意を目指します。合意内容は必ず離婚協議書として書面化し、さらに公正証書にすることを強く推奨します。公正証書があれば、万が一支払いが滞った場合でも、裁判を起こさずに強制執行が可能になるため、確実な回収につながります。
相手が情報開示に協力しない場合は、弁護士に依頼して弁護士会照会制度を利用することで、勤務先から直接情報を取得できる可能性があります。
調停・裁判での請求方法
話し合いで合意できない場合は、家庭裁判所に離婚調停または財産分与請求調停を申し立てます。調停では、調停委員が中立的な立場から双方の主張を聞き、法律や過去の判例に基づいた解決策を提案してくれます。
調停でも合意に至らない場合は、審判または訴訟に移行します。裁判では、提出された証拠や双方の主張に基づき、裁判官が最終的な判断を下します。客観的な証拠に基づいた論理的な主張が重要になるため、弁護士のサポートを受けることが望ましいでしょう。
手続きが長期化すると精神的・経済的な負担も大きくなるため、できる限り協議や調停の段階で解決することが理想的です。
請求期限と財産隠し対策
退職金の財産分与は離婚成立から2年以内であれば請求可能です。この2年という期間は「除斥期間」と呼ばれ、時効とは異なり中断や延長ができません。期限を1日でも過ぎると請求権そのものが消滅するため、離婚後に請求を考えている場合は早めの行動が重要です。
相手が退職金を隠したり使い込んだりする恐れがある場合は、仮差押えの手続きが有効です。裁判所に申し立てて認められれば、相手の財産を一時的に凍結し、勝手に処分できないようにできます。
また、「払えない」と言われた場合は、分割払いや他の財産での代物弁済、退職金支給後の後払いなど、柔軟な支払方法を検討しましょう。どの方法を選ぶにしても、公正証書の作成は必須です。確実な回収のためには、相手の資力や他の財産状況を考慮し、最も実現可能な方法を選択することが重要です。
確定拠出年金や税金はどうなりますか?見落としがちなポイント
退職金以外にも財産分与の対象となる制度があり、また税金の問題も重要です。ここでは見落としがちなポイントについて解説します。
確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)も対象になる
近年普及している確定拠出年金も支給(残高)や給付の確実性が高ければ清算的財産分与の対象とされる可能性があります。企業型DCやiDeCoは、婚姻期間中に拠出された掛金が夫婦の共有財産から支払われたとみなされるため、その期間に対応する部分が分与対象です。
評価方法は比較的シンプルで、別居時点での残高(時価評価額)が基準となります。運営管理機関の残高報告書で確認し、婚姻期間中の拠出分と運用益を按分して計算します。結婚前から加入していた場合は、結婚時点の残高を差し引いた額が対象となります。
確定給付企業年金(DB)や中小企業退職金共済(中退共)なども同様に財産分与の対象となるため、離婚時には忘れずに財産調査に含めることが重要です。
財産分与にかかる税金の注意点
財産分与で受け取った側には原則として贈与税はかかりません。財産分与は「夫婦の財産関係の清算」であり、贈与ではないためです。これは退職金でも不動産でも同様です。
ただし、分与額が社会通念上多すぎる場合や、偽装離婚とみなされた場合は例外的に贈与税が課される可能性があります。このリスクを避けるため、分与額は法的根拠に基づいて算定し、離婚協議書に明記しておくことが重要です。
一方、退職金そのものには所得税・住民税が課税されます。財産分与の計算では、税引後の手取り額を基準にするか、税引前の総支給額を基準にするかで金額が変わります。公平性の観点から手取り額を基準とする考え方が有力ですが、この点は相手方との交渉で明確に合意しておく必要があります。
専門家への相談の重要性
退職金の財産分与は複雑な専門知識を要するため、弁護士への相談が最善の選択です。適正な分与額の算定、相手との交渉代理、法的手続きの代行など、すべてを任せることができます。
弁護士を選ぶ際は、離婚問題や財産分与の実績が豊富な弁護士を選びましょう。相談のタイミングは離婚を考え始めたらできるだけ早い段階が理想的です。早期の相談により、財産隠しや使い込みへの対策を打つことができ、有利な交渉を進められます。
また、受け取った退職金の活用については、ファイナンシャルプランナー(FP)への相談も有効です。生活防衛資金の確保、NISAやiDeCoを活用した資産運用など、離婚後の経済的自立に向けた具体的なアドバイスを受けられます。
よくある質問
30代でも将来の退職金を請求できますか?
請求できる可能性は十分にあります。最近の裁判例では、定年まで10年以上ある若い世代でも、将来の退職金を財産分与の対象として認める傾向が強まっています。
ただし、定年までの期間が長い分、計算方法は「離婚時に自己都合退職したと仮定した金額」を基準とすることが多くなります。勤務先が大企業や公務員など安定している場合は、より認められやすいでしょう。
相手が退職金の金額を教えてくれません
弁護士に依頼して弁護士会照会制度を利用することが最も有効です。弁護士会を通じて相手の勤務先に照会をかけることで、退職金に関する情報を開示してもらえる可能性が高まります。
また、調停や裁判の手続きの中では、裁判所を通じて情報開示を求める「調査嘱託」という方法もあります。個人で調べるのは困難なため、情報開示でつまずいた場合は速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
共働きの場合はどうなりますか?
夫婦双方の退職金を財産分与の対象として計算します。それぞれの退職金について婚姻期間に対応する部分を算出し、その合計額を2分の1にするか、それぞれの分与額の差額を清算します。
たとえば、夫の分与対象額が800万円(分与額400万円)、妻の分与対象額が400万円(分与額200万円)の場合、夫が妻に差額の200万円を支払うことで清算します。婚姻期間中の収入に差があっても、原則として2分の1ルールが適用されます。
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